2011年4月5日火曜日

残すべき伝統か、排他すべき遺物か~米国の公立学校でも未だに残る体罰

By Dan Frosch, New York Times (Mar. 29, 2011) 教育社会学担当:生駒

学校の校長がパドルをもって廊下をパトロールしているイメージは“古きよき”米映画の中だけの話かと思いきや、Center for Effective Disciplineによると、学校での体罰は全米20州で未だ行われているという。 そして、これらの州のほとんどが、社会的にも、家庭的にも、体罰がしつけの一部として組み込まれている南部に位置している。

今回の話は、テキサス州Wichita Fallsの高校に通う 11年生(日本の高校2年生に相当)の生徒が、居残りをさぼったことでひどい体罰を受けた、とテキサスの議員に訴えたことを発端とする。母親がこの体罰によるひどい痣を確認し、この生徒は病院で手当てを受けている。

この母親は続ける。「仮に私が息子に対して同じことをしたならば、私は刑務所に服役することになるのですよ。」

およそ25年前まで、公立高校での体罰は多くの州で見受けられていた、とCenter for Effective Disciplineの設立者であるNadine Blockは語る。しかし、法による訴えや、体罰を疑問視する調査結果などに後押しされ、体罰は様々な州でだんだんと禁じられるようになってきた。

アメリカ連邦政府教育省の概算では、2005-6年度の間に223,190人もの子供たちが体罰を受けている。そして、Blockによると、ここ数年の値より約20%減少して、この数字なのだという。

テキサス州では、約1000校ある全学校のうち、少なくとも27校で未だに体罰が行われており、ニューメキシコ州では学校区の3分の1で体罰が容認されている。

体罰を完全に禁止するかどうかは、意見の分かれるところだ。例えば、ニューメキシコ州議会上院議員のVernon D. Asbillは、教師が生徒を統制するのが困難になってしまうのではないかと懸念を示している。「保護者の目の届く範囲で、保護者の許可があれば、体罰は容認しうるものだと信じている」と、彼は続ける。

これに対し、同じくニューメキシコ州議会上院議員のCynthia Navaは、学校におけるいかなる暴力にも断固反対の姿勢だ。暴力で問題は解決しえないと教育している場で、体罰が行われるのは本末転倒である、と。

今回と同じ高校で体罰を受けた他の生徒の弁護をしている、弁護士Joe Murrayによると、このケースでは、激しく殴打されたために、生徒は気を失い、そして顎を骨折するほどの重傷を負っている。

ルイジアナ州でも、法律により体罰が認められているが、特に、ニューオーリンズにあるSt. Augustine High School の学校評議会が体罰を禁止する評決に達してから、激しい議論が巻き起こっている。

暴力を助長する可能性があるという、ニューオーリンズの大司教Gregory Aymondからの圧力を受けた今回の評決だが、学校管理者や卒業生の中には、St. Augustine High Schoolの伝統を守り、そして、高い卒業率を保つためには、体罰は許容できる処置の1つであるという人がいるのも確かだ。さらに、この高校の現役生の中には、体罰を容認するよう、大司教に意見を翻すよう求めるデモを行っている生徒もいる。高校3年で生徒会長のJacob Washingtonの意見は印象的だ。“これはこの学校の伝統なんです。この学校は60年間このようにして守られてきたんです。僕らの学年を見れば、すぐにそのようなしつけを受けていない新入生との違いがはっきりとわかりますよ。”

残すべき伝統か、排他すべき過去の遺物か―議論はさらに活発化の様相を呈している。


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