2010年10月12日火曜日

加速するチャータースクール推進運動(1)

(教育政策担当: 鈴木)

 現在アメリカでは、全国学力テストにおいて低迷している公立学校を潰してチャータースクールを増やそうとする動きが加速している。オバマ政権もRace to the Topなどの連邦政府が出資する様々な助成金の申請資格として、各州によって決められたチャータースクール数の上限拡大を求めるなど、この運動を積極的に推進している。そしてもう一つ、この運動の一翼を担っているのがアメリカのメディアだ。特筆すべきは、今年、Waiting for a Superman, Lottery, そしてTeachedという、実に3本の「ドキュメンタリー映画」が立て続けにリリースされ、チャータームーブメントの更なる加速は必至とみられる。




 上で、「ドキュメンタリー映画」とカッコでくくったのには理由がある。これは、先日コロンビア大学Teachers College (TC) にて行われたWaiting for Supermanの先行試写会後のパネルディスカッションでAaron Pallas教授が言った言葉だが、少なくともWaiting for a Supermanに限ってはドキュメンタリーというよりチャーター推進のためのプロパガンダフィルムだ。(前評判を聞く限り、他の2本のフィルムもこれとさして変わりはないようだが…。

彼が面白いことを言っていた。

「プロパガンダにはあるパラドックスが内在している。プロパガンダとは、民衆を開眼させ彼らの意識を広げる一方で、それをまた一つの極めて狭い解決策へと扇動する。」

 Waiting for a Supermanはまさにこの言葉の通りだった。笑いあり、涙ありの、観客の心に直接訴えかける力を持つよい映画だ。『不都合な真実』 でオスカーを受賞したことでも知られる デイビス・グッゲンハイム (Davis Guggenheim) がアメリカの悲惨な公立教育の現状をテーマに挑んだもので、『不都合な真実』 と同様に世論を大いに動かす力を持っているとメディアの評価も高い。幾つかの酷い公立学校と素晴らしい成績を残しているチャータースクールをコントラストさせ、公立がだめでもチャーターという選択肢があること、しかしながらアメリカの貧しい家庭に生まれた子にとっては、そのようなチャーターに入り人生で成功できるかどうかはクジ引きによって決められるのだという厳しい現実が実に良く描写されている。

 しかし、だ。何故そのような現実があり、いかなる解決策があるのかということに対する分析は、あまりにも短絡的だ。アメリカの公立学校が低迷しているのは、質の悪い教師たちと彼らを守っているテニュア制度及び教員組合であり、改革の鍵は組合の撤廃とチャータースクールにあると言うのだ。教育と真摯に向き合っている人なら誰でもわかることだと思うのだが、問題も答えもそんなに簡単なものではない。

(続く…)

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