(教育政策担当:鈴木)
前回の投稿で、チャータースクールに関しては議論すべき点が数多くあると書いたが、今回はその続きを考えてみたい。
一つは、今日の教育改革ディスコースを支えるイデオロギーの妥当性だ。これは、Waiting for a Superman上映後のパネルディスカッションでコロンビア大学Teachers Collegeのジェフリー・ヘニッグ(Jeffrey Henig)教授が指摘した点だ。
ヘニッグ教授は、Spin Cycle: How Research Is Used in Policy Debates: The Case of Charter Schools.の著者で、この本で全米最大で最も権威のある教育学会であるAmerican Education Research Association (アメリカ教育学研究学会) から2010年のOutstanding Book Awardを受賞したチャータースクール及び学校選択の権威だ。
ヘニッグ教授の指摘によると、今日の教育改革ディスコースを支えるイデオロギーは主に二つある。
第一に、質の悪い教員をクビにすること。
第二に、一流大学から教員をリクルートすることだ。
最初のイデオロギーから考えてみよう。ここで言う「質の悪い教員」というのは前回の投稿からも分かるように、標準テストにおいて標準を大きく下回る点数を取っている生徒を教えている教員ということになる。
しかし、だ。予算の大半が地区の土地税によって賄われているアメリカの公立学校教育予算システムでは、裕福な地域では貧しい地域とは比べ物にならない程贅沢な教育予算があてがわれ、優秀で経験豊富な教員は皆、都市部の劣悪な教育環境を捨てて郊外の裕福な地域に行ってしまうことは周知の事実だ。つまり、優秀で経験豊富な教員こそ恵まれた環境で育った子どもたちを恵まれた教育環境で教えていて、都市部のスラムに住む最も助けを必要としている子どもたちが最もスキルも経験も無い駆け出し教員や非正規免許講師によって、しかも劣悪な教育環境の中で教えられているのだ(Lankford, H., Loeb, S., & Wyckoff, J. (2002). Teacher sorting and the plight of urban schools: A descriptive analysis. Educational Evaluation and Policy Analysis, 24(1), 37-62.)。
この問題に関しては、一つ面白い事例がある。今年初め、莫大な負債を抱えるカリフォルニア州にて、ロサンジェルスの教育長が大幅に削減された教育予算を理由に、成績の悪い学校を対象に5000人以上の教員を解雇した。そして、それらの学校では実に半分近くの教員が解雇される学校も少なくなかった。これは、教員組合の「Last hired, first fired」(解雇は教員経験の浅い順に行われる)という規定により解雇を実施したために起こった現象だが、成績の悪い学校こそ経験の無い教員が集中していることを実証している。
また、つい最近、RENEE v. DUNCAN (2010)という裁判があったばかりだ。マイノリティー及び低収入家庭の生徒が大半を占める学校の40%以上のの教員がTeach for America(TFA)などのインターン(非正規教員免許保持講師)であることをマイノリティーの生徒、保護者やその他の市民団体が、No Child Left Behindで定められている「全ての教室に質の高い教員を配置する」という規定に反しているとの違法性を訴え、アメリカ教育相アーン・ダンカン(ARNE DUNCAN)を相手取ってアメリカ連邦控訴裁判所から、審議の妥当性ありとする判決を勝ち取ったのだ。(詳しくはこちら)
ただ単にダメな教員をクビにしたところで、教える側にとっての教育環境改善なしに質の高い教員を誘致することは難しく、回転ドアのようにスキルも経験もない教員が出入りするだけだろう。また、この問題を無視してチャータースクールを推進したところで、公立学校における教員配置をめぐる不平等の問題解決にはならない。
(続く…。)
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