2011年4月30日土曜日

誰のため、何のための復興なのか? ~日本への警告 4~

【主張】教育政策担当: 鈴木

*ここに書かれている意見は、完全に筆者個人のものであり、このブログやティーチャーズカレッジを代表するものではありません。

 ここ数回に渡り、ミルトン・フリードマンとその崇拝者たちがクーデターや自然災害などの社会危機に乗じて推し進めてきた市場原理主義的経済改革の恐ろしさを、社会危機のさなかにある母国日本への警告として綴っている。

一つ注意しておきたいのは、私は規制緩和や民営化という概念自体が問題だと言っているのではないということ。ただ、1973年のチリのクーデター、2003年のアメリカによるイラク進出、2004年のスマトラ沖地震、2005年のアメリカ本土を襲ったハリケーン・カトリーナなどで、市場原理主義者たちが経済改革の手法として用いてきた「ショック・ドクトリン」(ナオミ・クラインによる命名)は、国の利益を第一に考えたものであり、その「国」そして「利益」のビジョンの大部分を占めるのは一部の企業とエリートだけであり、それ以外の人々、特に被災者や貧困層などの社会的弱者は必然的に恩恵の外へと追いやられることだ。

現に、1973年のクーデター以降、独裁者ピノチェトに経済アドバイザーとして迎え入れられたフリードマンと彼のシカゴスクールの教え子たちによる経済政策によってチリの経済は活性化したものの、現在チリは南米で最も貧富の差が大きい国の一つになってしまった。

イラクでも間違いなく一番恩恵を受けたのはブッシュ政権から様々な事業を委託された大企業たち。そして、彼らが銃弾の飛び交う危険地帯(レッド・ゾーン)の真ん中に造り上げた安全地帯(グリーン・ゾーン)の利権を買えるのはイラク人以外の外国人とイラク人政治家たちだけだ。ほとんどのイラク人はいつ撃たれてもおかしくない状況で暮らすことを余儀なくされた。

スマトラ沖地震でも同じことだ。津波で壊滅した海岸沿いの無数の漁村が、今では一大ビーチリゾート地になっている。パニックに乗じてそれら全ての土地が、地元の人々との交渉もないまま海外の企業家たちにタダ同然の値で手渡されたのだ。それもその筈、スリランカ政府が復興事業を委託するために立ち上げた外的機関Task Force to Rebuild the Nation (TAFREN)のメンバー10人のうち、5人が観光産業の要人だったのだ。(詳細はTourism Concernレポートを参照のこと。ちなみに、現在ミシガン州で新知事スナイダーにより初の「非常事態宣言」が発令され、町全体が企業の管理下に置かれようとしているBenton Harbor。知事によりそこの非常事態マネージャーに任命された人物は、何年もの間、町の人々の唯一の財産であるビーチラインの公園を一大ゴルフリゾートにするために立ち上げられたNPOの理事を務めてきた人物だ。詳しくはこちら。)

『ショック・ドクトリン』の中で、ナオミ・クラインがスリランカ政府の声明を引用している。

“In a cruel twist of fate, nature has presented Sri Lanka with a unique opportunity, and out of this great tragedy will come a world class tourism destination”

「残酷な運命のいたずらで、自然の力がスリランカにまたとない機会をもたらした。この未曾有の悲劇から世界有数の観光地が生まれることだろう。」

このような地上げ行為はハリケーン・カトリーナが襲ったニューオーリンズでも起こった。一大観光地であるフレンチ・クウォーターのすぐ隣には、幾つもの公団が立ち並んでいて、カトリーナ以前から企業家たちがそれらの土地を狙っていたのだ。カトリーナがそれらの地域に壊滅的なダメージを与えた時、ニューオーリンズ有数の共和党議員がロビーイストたちにこう言った。

“We finally cleaned up public housing in New Orleans. We couldn’t do it, but God did it.”

「とうとうニューオーリンズの公団を片づけることができた。我々はできなかったが、神がやってくれた。」

 復興作業がいつまでたっても進まないために避難したニューオーリンズの多くの人々が戻れない状態が続き、空き家になっている家々は次々と没収されていった。カトリーナから一年が経過した2006年9月には、St. Bernard Parishの4000の家が壊され、一年半後の統計ではニューオーリンズの人口はカトリーナ前の約半分の444,000人に減っていた。明らかにアメリカ政府が貧困層の人権を守る努力をしていない状態を見て、とうとう国連が2006年7月28日に非難声明を出したほどだった。(詳細はTeaching the Leveesから。)

 前にも書いたが、このように世界中で同じようなことが繰り返される状態を見て、知識人やジャーナリズムにいる多くの人間が訴えている。


 これはもはや「ミス」ではなく、実は緻密な計画に基づいたものでる。


(続く…)

教員評価の導入に向けたハードルとは?

By Sawchuk, S. Education Week, (Apr 26 2011) 教育評価担当:美馬

新しい教員評価制度の具体化が進むにつれ、州や学区の関係者は、技術上・運営上のさまざまな課題と格闘し始めている。近々彼らは、教員のパフォーマンスのvalue-added assessmentの前提となる、生徒や教員に関する情報を蓄積し、活用するシステムのチェックを受けることになるだろう。州や学区は、教員のパフォーマンスを管理する統合的なシステムを作り上げなければならない。わずかな好例しかない教育という分野では、簡単なことではないのだが。

「相当な数のIT専門家が必要になってくるだろう」と、非営利の政策研究所のBrian Stecher氏は述べる。この状況を複雑にしているのは、州や学区が頼るであろう請負業者の市場は未だ成長しているという事実だ。どういうことかというと、例えば、value-added assessmentの統計モデルを扱うようなIT専門家は、大手出版社やテスト制作会社ではなく、リサーチや教育プログラムの評価を行っている団体で働いている。Mathematicaもその一つだ。もともとは連邦政府が主導する大規模な教育プログラムの評価を行っていたが、近年はコロンビア自治区やピッツバーグの学区が教員評価システムを導入するに際してのITサポートを行っている。

今年の2月フロリダ州の教育省は、大手出版社のHoughton Mifflin Harcourtに、Douglas ReevesとRobert Marzanoという二人の著名なコンサルタントの研究に基づいた教員及びリーダーの評価システムの制作を依頼した。この契約には学区がこのシステムの導入をするサポートや、地域色に合わせてシステムを改変するサポートも含まれる。フロリダ州がHoughton Mifflin Harcourtにいくら支払うのかは明らかにされていないが、かなりの額であることは間違いない。Race to the Top助成金を得た12団体はほぼ全て、得た資金の半分以上を請負業者への支払いにあてる模様だ。

お金と政策を手にした州や学区が、最も複雑な技術・運営上の問題を外部の専門家に投げることは想像に難くない。説明責任の一貫としてすでに生徒たちの成長度合いを測るシステムを運用している州にとっても、教員の個別評価をすることは、生徒の評価からスイッチを切り替えるようにはいかないのだという。
さらに、全ての委託業務をつなげることも簡単ではない。外部の請負業者やプロバイダはそれぞれある特定の分野の専門家であるためだ。データの蓄積システムを開発するところや、value-addedモデルを作るところ、評価のフレームワークを作るところ、結果的に得られる情報を教員や運営者に分かりやすく伝えるフォーマットを作るところなどが分かれているのである。

記事原文

2011年4月29日金曜日

災害を喰いものにする政治家と大企業 ~日本への警告 3~


【主張】教育政策担当: 鈴木

*ここに書かれている意見は、完全に筆者個人のものであり、このブログやティーチャーズカレッジを代表するものではありません。


1970年代から自然災害やクーデター等による社会危機を利用して市場原理主義を推し進めてきたミルトン・フリードマンとその崇拝者たち。2005年のハリケーン・カトリーナによって壊滅的な被害を受けたニューオーリンズは、アメリカにおける彼らの絶好の実験場となった。

 ニューオーリンズの堤防が決壊してから2週間後、ワシントンDCにおいて最も影響力を持つ保守的シンクタンクの一つであり、フリードマンの崇拝者が数多くいるHeritage Foundationが会合を持ち、“Pro-Free-Market Ideas for Responding to Hurricane Katrina and High Gas Prices”(ハリケーン・カトリーナと石油高騰対策としての自由市場推進案。別名Opportunity Zone。)という合計32もの政策から成るリストを発表した。

それらは民営化規制緩和、そして公的部門の大幅財政カットという、ミルトン・フリードマンとその崇拝者たちが、チリ、イラク、スリランカなどで使ってきたショック・ドクトリンのトレードマークとも言うべき3本柱を要求する内容だった。そしてそれは復興支援とは名ばかりの、人道支援や民主主義とはかけ離れた市場原理主義推進政策だったKlein, 2007

 この民営化、規制緩和、そして公的部門の大幅財政カットという3本柱は、実は今まさに共和党が実権を握っているほとんどの州で行っていることに他ならない。プリンストン大学のノーベル賞受賞エコノミスト兼NY Timesの人気コラムニストであるPaul Krugman (2011)が、ウィスコンシン州から始まったこの一連の動きを、“Shock Doctrine USA”と分析したのも納得だ。もう一点。約一週間前、イギリスの有力経済誌The Economistが"A good place to start: The devastated north-east could be a test bed for opening up the economy."(日本の災害と経済改革:良きスタート地点)という、上の自由市場推進案と非常に類似した提案を日本の指導者に向けて発信している。「まさか日本でも」と危惧して調べていたら遭遇した情報だった。Shock Doctrineが日本でも使われる可能性は無きにしも非ず、その危機感が、今私にこれを書かせている。これらの二点に関してはまた機会を改めて書こうと思う。

話を元に戻そう。先の自由市場推進案は、Heritage Foundationで持たれた会合に出席していた共和党保守派の政策研究グループが提案し、一週間も経たないうちにブッシュ大統領によって採用されたKlein, 2007



民営化
 カトリーナ後の復興政策で際立っているのは、復興のあらゆる側面における民間企業への委託だ。被災した軍隊基地や橋などの建築、暴動対策などの警備、仮設住宅作り、死体処理に至るまで、災害のどさくさにまぎれて入札なしに委託された。その多くはイラクでもブッシュ政権に委託されて事業を展開している企業で、全てがブッシュの選挙に貢献した大企業だった。入札無く委託されたため、それらの企業は各事業に信じられない程高額な請求書を書く一方で、仕事はなかなか進まなかったKlein, 2007。ブッシュは再三追加予算を国会で迫り 、カトリーナ上陸2週間後の9月13日には、実に一日$1 billion(約817億円)ものお金を復興に費やすまでになっていたCrocco, 2007。イラクの時と全く同じ展開に、スパイク・リー、ナオミ・クライン他、知識人やジャーナリズムにいる多くの人間が、カトリーナの「対応のまずさ」は、実は緻密な計画に基づいたものであったと考えている。

もう少し具体的に見てみよう。仮設住宅作り一つをとっても、入札なしに委託された4つの企業の予算は、当初の$400 millionを遥かに上回り、最終的に$3.4 billion (約2778億円) となったHsu, 2006。また、死体処理に関しても、委託された企業は1体あたり平均100万円以上ものお金を州政府に請求した。にもかかわらず、その仕事は驚くほど遅く、1週間経っても炎天下の下で死体が放置され、NGO職員または地元の人間が死体処理した際には、彼らの利権を侵害したという理由で罰金が科される始末だったKing, 2006; Klein, 2007

この企業だけではない。驚くことに、ブッシュ政権に委託された企業の多くが、地元のボランティアや救済のために駆け付けたNGO、送られてくる支援物資などが彼らの利権を侵害していると政府に不満を呈した。また、本来であれば被災地で仕事を失った人々を雇用するべきところだが、代わりに多くの企業が非公式に最低賃金以下で違法移民を雇用し、地元の人は手をこまねいて見ている他なかった。(これは、先に述べた自由市場推進案によって、Davis-Bacon prevailing wage lawsという、政府に仕事を委託された人間には生活可能な賃金を支払う義務があるとする法案を被災地においては撤廃するという新たな法案ができたからだ。)これらのカトリーナ復興事業に関わった民間企業の数々の汚職に関しては、約一年後に公表されたレポートに詳しくまとめてある。

(続く…)



 
参考文献

Crocco M. S. (Ed.) (2007) Teaching the levees. New York: Teachers College Press. (http://www.amazon.co.jp/s/ref=ntt_athr_dp_sr_1?_encoding=UTF8&search-alias=books-us&field-author=Margaret%20Crocco)
Economist. (April 20, 2011 ). A good place to start: The devastated north-east could be a test bed for opening up the economy. The Economist. Retrieved from http://www.economist.com/node/18586786?story_id=18586786&fsrc=scn/tw/te/rss/pe

Heritage Foundation. (September, 2005). Pro-Free-Market Ideas for Responding to Hurricane Katrina and High Gas Prices. Washington DC: Heritage Foundation. (http://www.columbia.edu/itc/journalism/cases/katrina/Press/Nation/Nation%20Reconstruction%20Ideas.pdf)

Hsu, S. (August 9, 2006). $400 Million FEMA Contracts Now Total $3.4 Billion. Washington Post, from
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/08/08/AR2006080801581.html

King, R. (2006). Big, easy money: Disaster profiteering on the american gulf coast. Oakland, CA: CorpWatch.

Klein, N. (2007). The shock doctrine: The rise of disaster capitalism. New York: Metropolitan books.

Krugman, P. (February 24, 2011). Shock Doctrine USA New York Times, from http://www.nytimes.com/2011/02/25/opinion/25krugman.html?_r=2

2011年4月27日水曜日

これがアメリカなの? ~日本への警告 2~

【主張】教育政策担当: 鈴木

*ここに書かれている意見は、完全に筆者個人のものであり、このブログやティーチャーズカレッジを代表するものではありません。

 ニューオーリンズがハリケーン・カトリーナによって水没してから約半年後の2006年2月、メディアや民衆、上院・下院など、国のあらゆる側面から圧力を受けたブッシュ政権は、The White House Katrina Reportを公表し、その未曾有の被害は国の対応のまずさから起きたものであったことを認めた。

 しかし、カトリーナ後、一週間経ってもまだ被災者が崩壊した家の屋根から救助を求め、避難所となったスーパードームの外では死体がそのまま放置されているテレビの映像には、「対応のまずさ」だけでは理解できないものがあり、世界中を驚かせた。CNNのレポーター、Sanjay Guptaは「これがアメリカなの?」と問い、ボストンの有力紙、Boston GlobeのDerrick Z. Jacksonも、

“Here’s the wealthiest nation in the world—gave a Third World response to a major catastrophe”
「世界で最も裕福な国が大災害に対して第三世界並みの対応をした」と酷評した。

 では実際にどのような状態であったのか、アカデミー受賞監督、スパイク・リーの2006年作のWhen the Levees Brokeというドキュメンタリーフィルムが見事に映像として残しているので是非機会がある人は観て欲しいと思う。




そうでない人は以下の抜粋で我慢して欲しい。ちなみにこのフィルムは、George Polkテレビドキュメンタリー賞を始めとした、ジャーナリズムで最も権威のある賞の多くを受賞している。



 では、何がそのような「対応のまずさ」に繋がったのか。前回紹介したナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』は、ブッシュ政権の最大の狙いは人的救助にはなく、この社会危機をビジネスチャンスとして利用することにあったことを指摘する。

(続く…)

*ここに書かれている意見は、完全に筆者個人のものであり、このブログやティーチャーズカレッジを代表するものではありません。

2011年4月25日月曜日

ショック・ドクトリン ~日本への警告 1~

【主張】教育政策担当: 鈴木

*ここに書かれている意見は、完全に筆者個人のものであり、このブログやティーチャーズカレッジを代表するものではありません。



まえがき
 2005年、カリブ海諸国並びにアメリカ南部を襲ったアメリカ記録史上最大級のハリケーン・カトリーナをあなたは覚えているだろうか。被害総額も史上最大の99億ドル(今日の換算で約7兆6000億円)の損害を出した。中でも壊滅的な被害を受けたのがルイジアナ州ニューオーリンズで、市内の陸上面積の8割が水没、カトリーナによる死者1836人のうち、約86%がニューオーリンズで発見された (Crocco, 2007)

 カトリーナ以降、ニューオーリンズにてどのような政策が施行されてきたか、またそれが今日のアメリカ全体にどれだけ影響を及ぼしているかは、日本ではなかなか知られていないことなのではないだろうか。市場原理主義に基づいた自由市場の構築、それを支える極端な規制緩和及び政府機能の民営化、そして理不尽とも思われる公的部門の大胆な財政カット…。今後、具体的に述べていこうと思うが、その「改革」の最大の目的は、訪れた社会危機をビジネスチャンスとして利用することにあり、人道的支援にはなかった(Buras, 2009; Klein, 2007; Saltman, 2007)。そして、明らかにアメリカ政府が貧困層の人権を守る努力を怠っている状況を見て、とうとう国連はほぼ一年後の2006年7月28日に非難声明を出すに至った(詳細はCrocco, 2007から)。

約一ヵ月半前、カトリーナを遥かに超える災害に見舞われた日本。多くの市町村が壊滅的な被害を受け、学校システムも一から造り直す必要がある所も少なくないだろう。ポスト・カトリーナのニューオーリンズが発するメッセージ。それは復興の険しい道を歩み始める日本にとって、警告に他ならない。 

ショック・ドクトリン(The Shock Doctrine) 
 カナダ人ジャーナリスト、ナオミ・クライン(Naomi Klein)の世界的ベストセラー『ショック・ドクトリン』(2007)が今、アメリカで再び注目を集めている。



ショック・ドクトリンとはいったい何のことか。一言でいえば、ショック療法の経済的適用だ。ショック療法とは精神病患者に電気ショックを与え、まずは患者を子どものようなまっさらな状態に戻してから好ましい状態へと導いていくことを目的とする「療法」として生まれたものだが、1950年代以降、アメリカの秘密諜報機関であるCIAが拷問や洗脳などに使ってきたという歴史からも分かるように、強力で危険なものだ。





社会危機の利用価値に目をつけ、ショック・ドクトリン―つまりショック療法の経済的適用―を最初に提唱したのは、「新自由主義の父」とも称されるノーベル賞エコノミスト、ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)だ。それは、上のビデオでもあるように、自然災害あるいはクーデターなどで社会全体が麻痺に陥った時、人々がショック状態から立ち直る前に、過激で後戻りの効かないシステムを一気に構築することを意味している。具体的に言えば、市場原理主義に基づいた自由市場の構築で、教育、医療、郵政、電気やガス等のエネルギー資源、警察や地方自治体の行政に至るまで、政府が担ってきたあらゆる機能が民営化されることを意味している。もちろん、このような極端な政策は、社会が正常な状態であれば猛烈な反対に会う。だからこそ自然災害等の社会危機が必要なのだ。

フリードマンは言う。

“only a crisis—actual or perceived—produces real change”
「現実の、あるいは仮想の危機だけが真の変化を生む

驚くことに、このショック・ドクトリン、実はハリケーン・カトリーナの30年以上も前から存在していたという。最初の「実験舞台」となったのが1970年代のチリのクーデターで、フリードマンが社会危機の利用価値に最初に気付いたのも、クーデターによりチリの独裁者となったアウグスト・ピノチェトのアドバイザーとして彼がチリの経済改革に関与した時だったとクラインは指摘する。(ちなみに、チリではフリードマン及びシカゴ・スクールで彼のもとで学んだ数多くの教え子たちによる経済改革により、政府のあらゆる機関の民営化が行われ、瞬く間にフリードマンが夢見た自由市場を作り上げたのだ。教育に関しても、国全体でバウチャーを導入し、世界を驚かせた。)そして、その後もイラク、スマトラ沖地震などで磨きあげられ、30年もの間ずっとフリードマンと彼の崇拝者たちが待っていたアメリカ本土における危機こそがハリケーン・カトリーナだったのだ (Klein, 2007)

カトリーナがニューオーリンズを水没させた3ヶ月後、93歳で衰弱していたフリードマンは、最後の力を振り絞ってウォールストリートジャーナルに寄稿したそうだ。その中で彼はこう言っている。

“This is a tragedy. It is also an opportunity to radically reform the educational system.”
「これは悲劇だ。しかし教育システムを劇的に改革する機会でもある。」

このフリードマンの言葉通り、ニューオーリンズはその後、アメリカにおける新自由主義的市場型教育改革の実験場としての道をまっしぐらに突き進むのであった。


(続く…)



参考文献

Buras, K. L. (2009). 'We have to tell our story': neo-griots, racial resistance, and   schooling in the other south. Race Ethnicity and Education, 12(4), 427-453.

Crocco, M. S. (Ed.) (2007) Teaching the levees. New York: Teachers College Press. New York: Teachers College Press
Klein, N. (2007). The shock doctrine: The rise of disaster capitalism. New York: Metropolitan books.

Saltman, K. J. (Spring 2007). Schooling in disaster capitalism: How the political right is using disaster to privatize public schooling. Teacher Education Quarterly, 131-156.


2011年4月24日日曜日

アメリカ労働運動のその後 ~ウィスコンシン州公務員デモ8~

PR Watch

【教育ニュース】教育政策担当: 鈴木


 東北大地震で一時ストップしていたが、少しずつアメリカ労働運動のその後を報告していこうと思う。

ウィスコンシン
ウィスコンシン州の公務員団体交渉権剥奪法案は残念なことに、上院・下院共に通過し、新法として可決された。その後、本来であれば定員に足りていなかった上院会議で無理やり法案を通過させた際に、様々な手続き上の問題があったとして民主党が訴訟を起こした。地裁では確かに法的な問題があったという判決が出たが、最終的な判決は最高裁で争われることになった。

同時に、3月から4月にかけてウィスコンシン州最高裁裁判官の一席を争い、選挙が行われた。全7席ある最高裁では、現在4席が共和党、3席が民主党系列の裁判官によって保持しており、この選挙の結果次第では過半数を占めるのが共和党から民主党に逆転し、公務員団体交渉権剥奪法案可決の際に問題がなかったかどうかを争う裁判の判決にも決定的な影響をもたらすと見られている。

この選挙、事態が二転三転し、現在でも最終的な結果は出ていない。4月6日、チャレンジャーであった民主党の候補が勝利宣言をしたが、その後、ある自治体でカウントされなかった多数の票が見つかり、数日後に逆に現職の共和党裁判官が勝利を収める結果となった。現在は州全体で全ての票が数え直されているという状況だ。

 良いニュースとしては、州知事スコット・ウォーカー及びその他複数の共和党議員のリコール運動が行われていて、着実に署名が集まっているということだ。当選当初は圧倒的だったウォーカーの支持率も、現在では30%台にまで落ち込んでいる。

 このように、少なくともウィスコンシンでは来年行われる選挙にて、振り子がまた大きく戻る可能性がある。他の州はどうだろうか。貧富の差を広げる急激で後戻りのできない改革が最も危惧されるところだ。隣のミシガン州では、現在大変なことが起こっている。次に追ってみたい。



参照

Reviewing the Legal Battle Surrounding WI's Union-Busting Bill (PR Watch)



2011年4月22日金曜日

ピアソンがアセスメントのオンライン化をにらみ、情報収集へ

By Gewertz, C. Education Week, (Apr 11 2011) 教育評価担当:美馬

ピアソンが、アセスメントのオンライン化に関するWikiサイトをオープンさせた。目的は、2014年から統一アセスメントが実施されるにあたっての情報収集。
現在、“Race to the Top”助成金からの資金提供を受け、5つを除く全ての州が2つのチームに別れて統一アセスメントの開発をしている(詳細は過去の記事へ)。アセスメントのオンライン化はそのどちらのチームでも鍵となる要素だ。

ピアソンのWikiサイトには、今のところわずかな疑問しかあげられていない。しかし担当者によると、今は人々がアイデアを出すきっかけを提示したに過ぎず、最終的にはオンライン化に向けた確実な指針を得ることを目指しているという。ピアソンではこれまでも、National Assessment Governing BoardやACT Inc.、 the College Boardなどの団体と協力して国家のアセスメントの開発及び運営を行ってきた。
ピアソンの担当者Shilpi Niyogi によると、アセスメントに関する問題は必然的に学習標準やカリキュラム、指導方針の問題と関わってくるため、アセスメントについて展望を持つことは困難であり同時に重要であるという。Wikiサイトを通じてこれらの問題をあわせて検討し、アセスメントのオンライン化が、改革戦略の推進要素になればいいとの考えだ。どのようにインフラを作り上げるかという大きな問題もある。
その他の大手出版社やアセスメント会社と同様に、ピアソンも、2つのアセスメント開発チームの提案に基づく開発業務を受託しようとする可能性が高い。Niyogi曰く、入札するしないに関わらず「オンラインテスト化の取り組みに協力すれば、みな何らかの利益を得るだろう」とのことである。

記事原文

ここ20年ほど新しい市場を積極的に開拓してこなかった大手出版社にとって、未だ拡大しているアセスメント市場は貴重な存在。オンラインテストのためのインフラの開発そのものも莫大なお金が動く上、その後のアセスメントの開発や運営も伴う可能性が高い。大手出版社がこの時期から積極的に情報収集、研究、アピールを行うのは当然と言えるだろう。

2011年4月20日水曜日

US Education Today: Creating Knowledge-Sharing Spaces for Educational Change




  
This is a project proposal for the above Alumni Engagement Innovation Fund sponsored by The US Department of State. This project emerged from this blog “US Education Today” and was recently chosen as one of the 137 finalists out of about 700 projects. Please read our proposal and join us if it interests you! Also, if you are a (Department of) State Alumni, please vote for us @ https://alumni.state.gov/aeif2011/finalist We are now competing for the final survival.

(*これは上のビデオにありますアメリカ国務省のAlumni Engagement Innovation Fundというグラントに応募した私たちのプロジェクトの企画書です。このプロジェクトは、この『アメリカ教育最前線!!』から生まれたもので、応募総数約700件の中から137のファイナリストの一つに選ばれました。以下の企画書をお読み頂き、ご興味ありましたら是非参加下さい!また、もしフルブライト等のアメリカ国務省スポンサーの交流プログラム参加経験をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非https://alumni.state.gov/aeif2011/finalistを訪れ、私たちのプロジェクトに投票して下さい!!)



US Education Today: Creating Knowledge-Sharing Spaces for Educational Change

Project Description:
What can the world learn from the success and the failure of the US education reforms? This is a 1-day conference for scholars, policymakers, practitioners, and students interested in pursuing such a question. Initiated by a group of Japanese graduate students in the US which disseminates the latest education news and research in the US to the Japanese audience, this project seeks to expand the knowledge-sharing space for change by inviting individuals from diverse schools and institutions. Given the recent and ongoing crisis in Japan, a special attention is given to educational challenges in post-crisis situations. What are some of the challenges that educators, researchers, and policymakers need to overcome in such a moment of disruption, tragedy, and tremendous needs? How can we get our children to invest in humanity, and life? What can we learn from the US experiences? A keynote speaker will be invited from the US to touch on these essential questions.

Goals and Objectives:
The primary objective is to bring together individuals from diverse backgrounds interested in learning from US school reforms. We seek to achieve this by collaborating with various group partners such as JAAES and universities. We also aim to create cutting-edge, research-based virtual spaces to which education researchers and policymakers could refer. The conference will offer workshops to create such knowledge-sharing spaces, and participants are asked to create them in their own languages.

Timeline and Activity List:
May 30 – Jun 13: Blog Management (Committee Formation à Launch)
May 30 – Jul 7: Selection of Keynote speaker (Committee Formation à Confirmation)
May 30 – Oct 7:  Selection of presenters (Committee Formation à Approval notifications)
May 30 – Dec 7: Creation of online program (Committee Formation à Distribution)
January 7, 2012: One day Conference
Other committees (Treasury, Registration, Technological Support, and Volunteer)

Outcomes:
1. Inviting diverse individuals, it will help bridge the gaps among practice, theory, and policy to form vibrant learning communities for educational change.
2. Creating knowledge-sharing spaces for educational change, it will promote educational dialogues on a global scale to promote better informed educational practices, researches, and policies.
3. Its emphasis on how the US has responded to its own crises will promote better understandings and readiness for post-crisis educational challenges.

Team Members (Implementers):
19 State Alumni including scholars, graduate students, undergraduate students, and private sector individuals interested in making an educational change.

Individual Partners:
Include 11 members (2 professors, 7 graduate students, 1 educator, 1 journalist)

Group Partners:
Japan Association of American Educational Studies (JAAES) as well as students from 2 universities in Japan.

*Possible presenters/panelists include scholars, policymakers, practitioners, and university students interested in the US education.

*Possible audience include scholars, policymakers, practitioners, and university students interested in the US education.

Region: East Asia / Pacific

Location:
The conference will be held at Sophia University in Tokyo, Japan. (This location is subject to a change to another institution in a different city in case of a deteriorating nuclear power disaster.) Although the actual conference will take place in Japan, this is a global event that allows online participation from various countries. We have state alumni expressing their intentions to participate online from countries such as Brazil and Portugal.

Innovation:
- Regardless of how other nations evaluate them, today’s US educational landscape is full of innovative, and often provocative, education reforms that are largely driven by market principles. Given this increasingly globalized economy, it is of many nations’ interest to observe these experiments conducted in the US. However, there hardly exist cutting-edge, research-based virtual spaces to which researchers and policymakers could refer in their own languages. One major innovation of this project is the creation of such virtual spaces. As a result of this conference, participants will create, in their own languages, blogs, mailing-lists, Twitter and Facebook accounts that are designed to be hubs for the latest education news and research in the US. Linked as sister sites, they will together provide a powerful knowledge-sharing space for educational change.

- In this sense, this will be an ongoing and sustainable project with a great potential for further growth. The conference is just a start.

- Originally conceptualized by graduate students and brought into realization by the strong support from scholars, this initiative creates a wholly fresh, inclusive learning atmosphere that fosters and capitalizes on young energy. Undergraduate and graduate students from at least two universities are going to participate. Moreover, this conference will be co-sponsored by Japan Association of American Educational Studies.

- In order to be cost-efficient, this conference will allow participants residing outside Japan to join virtually through Skype rather than providing airfares. Moreover, we will broadcast the conference live on Ustream. Providing such measures are especially- Regardless of how other nations evaluate them, today’s US educational landscape is full of innovative, and often provocative, education reforms that are largely driven by market principles. Given this increasingly globalized economy, it is of many nations’ interest to observe these experiments conducted in the US. However, there hardly exist cutting-edge, research-based virtual spaces to which researchers and policymakers could refer in their own languages. One major innovation of this project is the creation of such virtual spaces. As a result of this conference, participants will create, in their own languages, blogs, mailing-lists, Twitter and Facebook accounts that are designed to be hubs for the latest education news and research in the US. Linked as sister sites, they will together provide a powerful knowledge-sharing space for educational change. 

- In this sense, this will be an ongoing and sustainable project with a great potential for further growth. The conference is just a start.

- Originally conceptualized by graduate students and brought into realization by the strong support from scholars, this initiative creates a wholly fresh, inclusive learning atmosphere that fosters and capitalizes on young energy. Undergraduate and graduate students from at least two universities are going to participate. Moreover, this conference will be co-sponsored by Japan Association of American Educational Studies.

- In order to be cost-efficient, this conference will allow participants residing outside Japan to join virtually through Skype rather than providing airfares. Moreover, we will broadcast the conference live on Ustream. Providing such measures is especially important as they will enable online participation as well as knowledge sharing for students and educators who were directly affected by massive disasters.

- After the conference, the project members will host a casual social gathering to share their experiences as State Alumni with Japanese university students interested in studying in the US.

Detailed Budget:
Key categories
  1. Honorarium
  2. Conference venue
  3. Refreshments and Expendable goods

Itemized Expenses
  1. Honorarium
          -Airfare (US - JAPAN): $2,000 x 1 = $2,000

          -Accommodation: $350 x 2 nights = $700
          -Meals: $80 x 3 days = $240
          -Stipend: $2,000 x 1 = $2,000
           = $4,940 x 1 person = $4,940
    2. Conference venue $5,000 (including rental equipments) x 1 day = $5,000

    3. Refreshments and Expendable goods

          -Soft drinks: $1 x 300 persons = $ 300

          -Program (supplies and printing): $1 x 300 persons = $ 300
           = $ 600 x 1 day = $600

Total Funding Requested: $10,540

Representative:
Daiyu Suzuki (Fulbright 2008 - present) ds2755@columbia.edu