(教育政策担当:鈴木)
昨日、ロサンジェルスのニュースをピックアップしたばかりだが、今、value-added assessmentという比較的新しい手法による教員評価が全米で話題になっている。今日は、反対側のニューヨークにおけるニュースが飛び込んできた。
「ニューヨーク市、教員評価の公表を延期」
ニューヨーク市は、来月予定されている法廷での審問の結果が出るまで、12,000人の教員個人評価の公表を延期することに同意した。この件に関しては、NY市教育長がvalue-added assessmentによる教員評価を公表する意向を表明したことを受けて、教員組合(UFT)が実証されていない手法による評価だとして禁止令を法廷に求めていた。組合側は、サンプルサイズが小さいこと、そして様々な外的影響が生徒のテストの点数を左右することなどが、評価の不安定性に繋がっていると指摘している。また、特筆すべきは、ビデオクリップで詳しく説明されているが、NY市がvalue-added assessmentの導入を決める要因になったコンサルタントのレポートには、この手法のみで教員の給料やテニュア昇格などの重要な決定をすべきではないと警告されていることだ。
また、教員の個人評価を公表するという選択には、一つの決定的な問題がある。それは、学力低下の打開策を教員のインセンティブに見出していることだ。しかし、学力低下の要因がインセンティブの欠如にあるとするなら、生徒の学力向上に必要な知識やスキル、そして良い指導のノウハウを教員は既に持っているということになる。適度なインセンティブさえ与えれば生徒の学力は伸びるであろうという仮説はあまりにも短絡的だ。また、『加速するチャータースクール推進運動2 ~アメリカ教育界を蝕む病理~』でも触れたが、数学と国語の標準試験の点数を「学力」と呼べるのかどうかという点においても議論の余地は十分にある。
更に、公立学校の教員配置をめぐる不平等については、『加速するチャータースクール推進運動3 ~今日の教育改革を支える第一のイデオロギー~』 で既に述べた。経験も知識も豊富なベテラン教師は、学校の成績優秀者だけを対象にしたAdvanced Placement (AP) クラスだったり、裕福な地域で恵まれた子どもたちが集まる学校だったり、良い教育環境で教えている。それに比べ、経験も知識もない駆け出しの教員や非正規免許講師が、最もニーズの高い生徒たちを教えているのだ。
教員評価によるインセンティブなど、妥当性のない打開策を求めるより、ニーズの高い子どもたちを教えることの大変さと尊さがしっかりと評価され、それを全力でサポートする体制作りが先決なのではないだろうか。本来であれば、最も難しい子たちを任されることが教師にとって最高の名誉である。しかし、試験の点数だけで教育を図ろうとする現在のシステムでは、優秀な教員が貧困地区から逃げ出すのも無理はない。
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