2011年2月28日月曜日

労働組合解体の危機 ~ウィスコンシン州公務員デモ 1~

【主張】教育政策担当:鈴木




 昨年11月に行われたアメリカ中間選挙では、減税と「小さな政府」を訴えるTea Party 運動が巻き起こした追い風に乗った共和党が躍進した。今、アメリカの各地でその影響が表れてきている。

 顕著な影響の一つに、公務員の労働組合の団体交渉権を剥奪しようとする動きがあり、知事対労組の争いが拡大している。少なくともウィスコンシン、ニュージャージー、オハイオ、テネシー、ペンシルバニア、フロリダ、イリノイの各州でこの動きがあり、他の幾つかの州では既に剥奪に成功している。どの州でも、公教育が州の予算において最も高額な経費であるため、労組の中でも特に教員組合を無力化しようとする傾向がある(CNN)。

 今、ウィスコンシン州が全米の注目の的だ。先の中間選挙で新しく就任した共和党の知事、Scott Walker(スコット・ウォーカー)が、予算修正案の中に、「マイナーなアイテム」と称して、幾つかの重要事項を盛り込み通過させようとしたのだ。公務員による年金や医療保険の負担額の増加の他に、知事の権限の大幅な拡大を狙ったものが多々あった。中でも、州政府のみならず市町村レベルを含む、ウィスコンシン州のほぼ全ての公務員の団体交渉権を大幅に縮小する案が民衆の怒りをかった。

 すぐさま、教員組合員を始め、民主党だけでなくWalkerが当選するのを支えた共和党支持者たち、そして多くの大学生や職員たちが州の議事堂に押し寄せデモを繰り広げた。つい先日、スーパーボウルを制しワールドチャンピオンとなった地元のアメフトチーム、グリーンベイパッカーズや、法案では除外された警官と消防士の組合も賛同し、デモに加わった。




Martin Luther King moment

デモの支持者は数万に膨らみ、そのニュースが全国ネットで流れると他の州からも多くの人々がウィスコンシン州の州都、マディソンに集まって来た。この週末のデモ参加者は10万人以上となった。また、先日リリースされたUSA TODAY/Gallup Pollによれば、ウィスコンシン州で審議にかけられているような公務員の団体交渉権剥奪には61%のアメリカの国民が否定的で、賛成の33%を大幅に上回った。

 デモを支持するためにウィスコンシンに集まった人々の中にはミュージシャンを始め、多くの著名人もいた。その一人がJesse Jackson(ジェシー・ジャクソン)牧師だった。Martin Luther King Jr.(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)牧師との交友も深く、2006年にはアメリカで最も重要な黒人リーダーに選ばれた人物だ。5万人の観衆を前に、彼は感動し、こう言った。

“This is a Martin Luther King moment.”

「これはマーティン・ルーサー・キングが夢見た瞬間だ。」


A Bigger Picture 

 Walkerにも言い分がある。長引く不景気で州の財政は大幅な赤字で、これを何とかしなければならない。州の未来を守るために今は我慢して欲しい、と言う。

 もっともらしく聞こえるが、これには裏がある。
実は問題の予算修正案が提出される前、Walkerは2つの寛大な企業減税に署名している。これにより、今年初めの段階では2011年を$120 million(約98億円)の黒字で終わる予定だったのが赤字に転じて、自ら作ったその赤字で公務員に対する厳しい処置を正当化しようとしたのだ(AlterNet)。

 不景気の影響でもともとプライベートセクターで働く人々の中にあった、恵まれた労働条件を持つ公務員に対する不満を利用したということも言えるだろう。しかし、ここで2つのポイントを確認したい。一つは、公務員の年金は州予算の6%にしか満たないこと。そしてもう一つは、公務員はプライベートセクターで働く人間よりも平均して経験も学歴もあり(2倍の確率で学士保持)、それらの要素を考慮するとプライベートセクター労働者よりも4%給料が少ない計算になるのだ(AlterNet)。

 更に、労働組合側は既にWalkerが提案した年金や医療保険の負担額の増加という、団体交渉権剥奪以外の条件を飲むと表明している。つまり、この時点で財政赤字は問題ではなくなっているはずだ。それなのに依然として譲歩する姿勢を見せないところを見ると、財政赤字解消というのはWalkerの口実であることがわかる。真の狙いは労組の団体交渉権の剥奪、更に言えば、労働組合の解体にあるのだ。そして、労組側にしてみれば、これはもはや賃金や福利のためではなく、生存そのものをかけた争いなのだ。 (続く…)

*ここに書かれている意見は、完全に筆者個人のものであり、このブログやティーチャーズカレッジを代表するものではありません。

参考文献

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